アメリカ大統領選でなぜトランプが勝利できたのか ー日本では報道されないアメリカ人の本音ー Part.2

「アメリカ大統領選でなぜトランプが勝利できたのか ー日本では報道されないアメリカ人の本音ー Part.1」からの続きです。前回の記事では今回の大統領選挙が人種・女性差別といったモラルに焦点が当てられ過ぎたことにより、結果として政策に関するまともな議論が行われることのない状況に陥ってしまったと解説させて頂きました。今回の記事では、トランプがこの度の大統領選挙に勝つことが出来た要因について探っていきたいと思います。

 

トランプ支持者たちの主張とは

トランプがなぜ勝てたのかを理解するためには、当然のことながら、まずは支持者たちの支持理由を知ることが重要です。しかしながら今回はトランプの過激な発言が元となり、表立ってトランプを支持する著名人は殆どおりませんでした。その中でトランプを支持した数少ない著名人の主張を初めに紹介したいと思います。

皆さんはピーター・ティール(Peter Thiel)という人物をご存知でしょうか。アメリカでは非常に有名な実業家なのですが、一応ご存知でない人のために簡潔に説明させて頂くと、ピーターはPayPalの共同創業者の一人であり、かのシリコンバレーで多くのベンチャー企業に出資する投資家としてや、PayPal Mafia(ペイパル・マフィア:*日本語ではペイパル・ギャングとして紹介されることが多い)の一員としてシリコンバレーに多大な影響力を持っている人物としても知られています。

そんな彼は今回の大統領選挙にてトランプ陣営に対し、125万ドル(約1億3500万円:2016年11月15日現在)もの支援金を送ったことで更に脚光を浴びることとなりました。元々型破りな人物として知られるピーター・ティールですが、今回彼がとった行動もまた多くの人を驚かせるものでした。彼はなんと、LGBTの立場を取っている共和党の全国大会スピーチにてゲイであることを公言しただけでなく、トランプおよび共和党の支持を表明したのです。


*ピーター・ティール氏
(Retrieved from http://www.cnn.com/2016/07/21/politics/peter-thiel-gay-republican-national-convention/)

 

彼の発言の中でも特筆すべき点は「I don’t agree with everything Donald Trump has said and done. I don’t think the other millions of people voting either do.(私はドナルド・トランプの言動やしてきたことの全てを肯定している訳ではない。彼を支持している他の者たちも同様だ。)」としながらも、「We’re voting for Trump because we judge the leadership of our country to have failed.(私たちがトランプに投票をするのは、この国を堕落させた(*現政権の)リーダーシップに審判を下したからだ。)」と語っていることでしょう。

彼はトランプの発言を擁護できるものではないとしながらも、アメリカ経済が置かれた状況は深刻であり、特にミレニアム世代(1980年代から2000年代に生まれた世代の総称)は非常に厳しい経済状況下に置かれていると警鐘を鳴らしています。彼の主張はアメリカの経済面に焦点が当てられており、トランプの掲げている経済政策に期待していることが支持理由であると述べているのです。(トランプの経済政策の詳細に関しては多くのメディアが既にまとめているので、そちらをご覧ください。)

実はこれは、USA Today “Trump Nation”(トランプ支持者の特集記事)にまとめられている、多数の支持者の意見とも一致します。すなわち、前回の記事で紹介したようなトランプの隠れ支持者たちは、同様の理由からトランプを支持をしていると考えるべきでしょう。尚、ピーター・ティールの発言の詳細は下記の参考記事より確認してください。今回はピーターの発言を日本語で紹介している記事も発見することが出来たので、そちらも合わせて紹介させて頂きます。

参考記事:CNN “Peter Thiel defends his support of Donald Trump”
参考記事:Forbes Japan ”トランプ応援演説で「ゲイ宣言」の投資家ピーター・ティール、驚愕スピーチの中身”
参考記事:Gizmodo ”「トランプ大統領」シリコンバレーの反応まとめ。付録:ピーター・ティールの支持理由”

 

 

なぜトランプを支持したのかではなく、なぜヒラリーを支持できないのかを考える

ここまで見てきたようにトランプを支持している人たちにも正当な理由があることが分かってきたと思います。しかしながら、いかにトランプが素晴らしい経済政策を掲げていようと、彼への支持を拒否したくなるほどのマイナス面があることもまた事実です。ではなぜそれほどのマイナス面があっても尚、トランプは多くの票を集めることが出来たのでしょうか。これはなぜヒラリーが支持を得られなかったのかと考えていくと答えは自ずと出てきます。

まず、ヒラリーが支持されない要因の一つとして挙げられるのは、ピーター・ティールのように現政権の政策を支持できない人が多数いたにも関わらず、ヒラリーは現政権の方針を大筋引き継ぐことが有力であると見られていたことでしょう。例えばTPPはアメリカ国内でも非常に反発を招いている協定なのですが、いかにヒラリーがTPPに反対しようと、同じ民主党政権である以上協定を反故にすることはないと考えられていました。しかしこれだけでは全ての説明は付きません。これは既知の事実でもありますが、トランプに支持が集まった要因はヒラリー自身の嫌われっぷりにあるのです。

この問題を掘り下げる前に、まずはCNN “Exit Polls 2016” (出口調査)を見ていきたいと思います。こちらの記事にはIncome(収入)やEducation(学歴)ごとに分けた調査結果も出ているので様々な仮説を立てることが出来るのですが、私が注目して頂きたいのは年齢ごとのアンケート結果です。この調査結果を見る限り、上の世代にいくにつれてヒラリーの支持率が下がっているのです。これは一体どういうことでしょうか。

 

若い世代が知らないクリントン夫妻のスキャンダルとは

なぜヒラリーがこれほど年配の層に嫌われているのかを理解するためには、ビル・クリントンの時代にまで話を遡らなければなりません。皆さんご存知のように、ビル・クリントンは1993年から2001年までアメリカ合衆国大統領を務めた人物であり、同時にヒラリー・クリントンの夫でもあります。しかしながら、ビル・クリントンはスキャンダルに塗れた政治家でもありました。

私が知っている限り、ビル・クリントンの一番初めのスキャンダルは、1992年にNew York Timesによって明らかにされた“Whitewater Controversy”(ホワイトウォーター疑惑)という汚職疑惑です。これは公的資金を投入することで土地の価格をつり上げ、クリントン夫妻が不当に利益を得ていたとされる疑惑です。また、信憑性のあるソースが見つからなかったのですが、大統領選の記事などに寄せられたアメリカ人のコメントでは、この事件においてクリントン夫妻は関係者を何人か自殺に追い込んでいるなどの批判も見受けられました。

他にも“The White House Travel Office Controversy”(トラベルゲート疑惑)“White House FBI Files Controversy”(ファイルゲート疑惑)といった、クリントン夫妻が関与したと言われる疑惑が次々と発覚します。中でもこの度の大統領選挙において大きな影響力を及ぼした疑惑は、“The 1996 United States Campaign Finance Controversy”と呼ばれる献金疑惑でしょう。これはビル・クリントンが中国当局から政治資金を得ていたとされる疑惑です。事実、当時ビル・クリントンは親中派として有名であり、彼の外交姿勢そのものがこの疑惑に拍車を掛けました。


(Retrieved from http://www.usatoday.com/story/news/politics/2014/04/09/obama-lyndon-johnson-bill-clinton-jimmy-carter-george-w-bush/7515297/)

 

長年に渡るスキャンダルの数々がヒラリーのイメージ悪化に繋がった

ビル・クリントン政権時代の疑惑の殆どはヒラリーが共謀して行っていたとされています。しかしながらクリントン夫妻は、スキャンダルが発覚するたびにチグハグな言い訳をし、言動が変わっていくという行為を繰り返していました。ここまで書いたらもうお分かりだと思いますが、ヒラリーが嘘つきで信用ならないというイメージは、実はビル・クリントンの政権時代より築き上げられてきたものなのです。先ほどのTPPの話に戻りますが、ヒラリーは口先だけで実際にはTPPに反対しないと思われていた理由にも繋がります。

また、先ほど言及した中国当局からの献金疑惑ですが、最近どこかで似たような話を聞いたことがありますよね。そうです。今年ヒラリー自身もクリントン財団を通して中国人実業家から多額の献金を受け取っていたとしてFBIに調査をされました。これはビル・クリントン政権時代を知っている者からすると、またかと言った調子でヒラリーへの信用が完全に失墜したのです。ましてや現在、中国を外交上最大の脅威と見なしているアメリカ人からすれば、ビル・クリントン同様の親中派が大統領になるなど考えられません。

それだけではなく、ヒラリーがゴールドマン・サックスなどの金融会社でしばしば講演会を開いていたことがウィキリークスによって暴かれ、同時に多額の資金を受け取っていたことも判明いたしました。この一件が暴露されたことで、講演会の内容と公共の場で語っている内容の相違について尋ねられたヒラリーは「公的な立ち位置と私的な立ち位置は違う」と苦しい言い訳をするに至っています。また、クリントン財団を通して金融会社から多額の資金を受け取っているヒラリーは、この一件で金の亡者のイメージまでも確立してしまったのです。

 

ここまでいかがでしたでしょうか。日本では過激な発言ばかりが取り沙汰されていたドナルド・トランプではありますが、実際の支持者たちの声を聞くと、彼の経済政策やリーダーシップに期待していることが分かります。反対にヒラリー・クリントンはビル・クリントンの政権時代から続く政治家としての経歴があり、その点を理解していないとなぜアメリカ人がヒラリーを支持しなかったのかを理解することは出来ません。砕けた言い方をしてしまえば、今回の大統領選挙はヒラリーに入れるよりかはトランプに票を入れる方がマシだと考えている層が大勢いたことは想像に難くないのです。

しかし、ここで一つの質問が湧き上がってくると思います。ドナルド・トランプを支持した人たちは、政治の素人であり、無茶苦茶な発言を繰り返している人物へと大統領権限を明け渡すことに対し、果たして抵抗はなかったのでしょうか。実はこの辺りのアメリカ人の考えを理解するためには、アメリカにおけるThink Tanks(シンク・タンク)などの存在についても触れなければなりません。今回も記事が想定より長くなってしまったため、この辺りは次回「アメリカ大統領選でなぜトランプが勝利できたのか ー日本では報道されないアメリカ人の本音ー Part.3」でお話ししたいと思います。

「アメリカ大統領選でなぜトランプが勝利できたのか ー日本では報道されないアメリカ人の本音ー」リンク一覧

Part.1(2016年大統領選挙において議論がまともに行われなかった理由)
Part.2(トランプが支持された理由とヒラリーが支持されなかった理由)
Part.3(選挙戦の焦点であった移民法と大統領令の概要まとめ)
Part.4(アメリカ人が政治の素人であるトランプに投票できた理由とは [近日中に公開予定])
番外編(シアトルにおける反トランプデモ・レポート [近日中に公開予定])

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